慰謝料を請求したい。けれど「証拠がないと難しい」と聞いて、何を集めればいいのか分からない。ここでは、何が証拠として扱われうるのか、どの段階で何をしておくべきかを整理します。金額の考え方は慰謝料のページで確認できます。

証拠が必要になる理由

慰謝料は、相手の行為によって精神的な苦痛を受けたことに対する賠償です。相手が事実を認めれば話し合いで決まりますが、否認された場合、事実があったことを示す側が資料を出すことになります。

資料を出すのが請求する側になるのは、条文の組み立てによります。民法709条は、故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した者が損害賠償の責任を負うと定め、民法710条は、財産以外の損害についても賠償しなければならないとしています。精神的な苦痛はこの「財産以外の損害」にあたります。侵害があったことと、それによる損害を示す立場に立つのが、請求する側です。

逆に言えば、資料がそろっているほど、相手が争いにくくなり、話し合いの段階で決着しやすくなります。証拠集めは裁判のためだけのものではありません。そもそも自分の事情が対象になるのかは、慰謝料を請求できるケース・難しいケースで確認できます。

不貞行為の場合

不貞を理由とする場合、求められるのは「肉体関係があったと推認できるか」です。親密なやり取りだけでは足りないと判断されることもあります。単体で決め手になる資料は多くないため、複数を組み合わせることが現実的です。

資料 押さえたい点
写真・動画 二人で宿泊施設に出入りしている様子など。日付が分かる形で
メッセージのやり取り 関係性が読み取れる内容。画面全体と日時が入るように
クレジットカードの明細 宿泊施設の利用履歴、日付、金額
領収書・レシート 二人分の飲食、旅行の記録
位置情報・移動の記録 行動と説明の食い違いを示すもの
相手が認めた記録 本人が事実を認めたやり取りや書面

集め方で気をつけること

証拠を集める過程が問題になることがあります。相手の端末に無断でアプリを入れる、パスワードを破って中身を見るといった行為は、それ自体が違法と判断される可能性があります。集めた資料が使えなくなるだけでなく、こちらが責任を問われることもあります。

共有のパソコンに表示されていたもの、自分宛てに届いたもの、家の中で見つけた書類など、通常の生活の範囲で得られたものから残していくのが基本です。

暴力・暴言の場合

継続していること、いつ何があったかが分かることが重要です。

  • 診断書。受診時に「何によるものか」を伝えて記載してもらう
  • けがの写真。日付が分かる形で
  • 録音。日時をメモとセットで残す
  • 壊れた物の写真
  • 相談した記録。配偶者暴力相談支援センター、警察、自治体の窓口など
  • 日々の記録。日付、時刻、何があったか、その時の状況

日々の記録は、単独では弱くても、他の資料と組み合わさると効きます。後からまとめて書くのではなく、その都度、短くても残しておいてください。

生活費を渡さない、家を出たという場合

この場面では、通帳の入出金、送金の記録、生活費を求めたメッセージ、別居がいつ始まったか分かる資料が材料になります。

注意したいのは、慰謝料と、別居中の生活費(婚姻費用)や財産分与が混ざりやすいことです。家計に関するやり取りと、夫婦関係の経過の記録は、分けて保存しておくと後から見返しやすくなります。

いつまでに動くか

慰謝料の請求には期間の制限があります。民法724条は、損害および加害者を知った時から3年、行為の時から20年と定めています。また同法724条の2により、生命または身体を害する不法行為については3年ではなく5年とされています。

不貞の場合、いつから数えるかが争点になることもあります。「まだ大丈夫だろう」と判断せず、事実を把握した時期をメモに残しておいてください。

弱くなりやすい資料

証拠は多ければよいものではありません。次のようなものは、それ単体では意味づけが難しくなります。

  • 日時が分からない画像
  • 出所が分からないメモ
  • 編集した形跡があるデータ
  • 誰の発言か分からない録音
  • 「前から怪しかった」「たぶんそうだと思う」という印象だけの記述

出来事と感想が混ざった長文のメモも、後から日付や資料の所在を探しにくくなります。事実と気持ちを分けて、短くても一つずつ切り分けて残してください。

整理する項目 確認したい点 残し方
出来事 何があったか 短く事実だけを書く
日時 いつ起きたか 日付が見える画像や手帳の記録を添える
場所・相手 どこで、誰が関わったか メッセージ、写真、相談の記録をまとめる
影響 体調や生活への影響 受診記録、欠勤の記録、継続的なメモ

証拠の残し方

  1. 画面の記録は、日時が写る形で撮る。アプリ内だけに残さない
  2. 複数の場所に保存する。端末が使えなくなる事態に備える
  3. 相手に気づかれる場所に置かない。消される、隠されるおそれがある
  4. 集めた資料は、日付順に一覧にしておく
  5. 集めていることを、話し合いの前に相手へ伝えない

何を求めたいのかを先に決める

資料がそろってきたら、何を求めたいのかを整理してください。謝罪なのか、離婚条件の中で慰謝料を話し合いたいのか、別居中の生活費など別の論点も含めたいのか。目的によって、必要な資料のまとまり方が変わります。

資料の束が大きくても、目的ごとに分かれていないと、かえって伝わりません。時系列に並べたうえで、何のための資料かが分かる形にしておくことが、話し合いでも調停でも効きます。

証拠がそろっていないとき

完全にそろってから動く必要はありません。相手が事実を認めれば、資料が少なくても話し合いは成立します。また、離婚そのものや財産分与、養育費の話は、慰謝料と切り離して進められます。

いま手元にあるもので何が言えるのか、何が足りないのかを整理したい場合は、相談窓口をご案内しています。