離婚を考え始めたとき、「収入がなかった自分にも財産分与を求められるのだろうか」と不安になる方は少なくありません。専業主婦の場合でも、婚姻中に夫婦で築いた財産であれば、話し合いの対象になることがあります。大切なのは、名義や収入の多さだけで決めつけず、どの財産が夫婦の共有財産にあたるのかを一つずつ整理することです。

専業主婦でも財産分与を考えられる理由

財産分与は、離婚のときに夫婦の財産関係を整理するための手続です。専業主婦で収入がなかったとしても、家事や育児、生活の支えによって配偶者が働けた面があるなら、婚姻中に形成された財産について分与を考える余地があります。

ここで大事なのは、「どちらの名義か」だけで判断しないことです。夫名義の預貯金や保険、自宅であっても、婚姻中の収入や生活設計の中で形成されたものであれば、共有財産として扱いを検討する場面があります。反対に、結婚前から持っていた財産や、相続・贈与で取得した財産は、一般に共有財産とは別に考えられます。

この点は、令和8年4月1日に施行された改正で条文に書かれました。民法768条3項は、家庭裁判所が分与の額と方法を定めるにあたって考慮する事情のひとつに「婚姻中の協力及び扶助の状況」を挙げたうえで、財産の取得や維持についての各当事者の寄与の程度は「その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする」と定めています。

つまり、どちらの寄与が大きいかがはっきりしない場合は、等しいものとして扱われます。収入がなかったことが、そのまま寄与が小さいことにはなりません。割合の考え方は、別の記事にまとめています。

対象になる財産と、対象になりにくい財産

話し合いを進める前に、財産を「共有財産になり得るもの」と「特有財産として扱われやすいもの」に分けて考えると整理しやすくなります。

区分 主な例 確認したいこと
共有財産になり得るもの 婚姻中に増えた預貯金、自宅、保険、車、積立、婚姻中に形成された退職金の一部 取得時期、原資、残高や評価額、ローンの有無
特有財産として扱われやすいもの 結婚前から持っていた預貯金、相続した財産、親から個人的にもらった財産 結婚前の資料が残っているか、共有財産と混ざっていないか

実際には、線引きがはっきりしないこともあります。たとえば結婚前の預金口座に婚姻中の収入が入り続けていると、どこまでが結婚前の財産で、どこからが婚姻中に形成された財産かが分かりにくくなります。そのため、通帳や取引明細、保険証券、不動産の資料など、時期が分かるものを集めておくことが大切です。

専業主婦の方は、自分名義の財産が少ないために不利だと感じやすいのですが、財産分与では「名義が誰か」より「夫婦で築いたか」が重要になる場面があります。反対に、相続財産のように夫婦で築いたとはいえないものまで、当然に分けられるわけではありません。対象を広げすぎず、狭めすぎず、資料で確かめながら進める姿勢が役立ちます。

専業主婦の財産分与で争点になりやすいもの

自宅と住宅ローン

持ち家がある場合は、家そのものだけでなく、住宅ローンの残りも含めて見ます。見た目には大きな財産に見えても、ローンの状況によって実質的な評価は変わります。名義が配偶者だけでも、婚姻中に取得し、返済を家計からしてきたなら、財産分与の検討対象になることがあります。

ただし、自宅を売るのか、どちらかが住み続けるのか、ローン名義をどうするのかは別々に考える必要があります。とくにローン残高が不動産の価値を上回る場合は整理の仕方が変わるため、オーバーローンの家をどう考えるかもあわせて確認しておくと見通しを立てやすくなります。

退職金と年金分割

退職金は、いつの勤務に対応するものかによって見方が分かれます。すでに受け取っているか、まだ受け取っていないかでも検討の仕方は異なりますが、少なくとも「将来のものだから関係ない」と決めつけないことが大切です。婚姻期間との関係を確認しながら整理します。考え方の入口として、退職金が対象になる場面をまとめた記事も参考になります。

また、財産分与とは別に、婚姻期間中の厚生年金の記録を分ける年金分割という手続があります。これは現金をその場で分ける話とは違いますが、離婚後の生活設計に関わるため、専業主婦の方にとって見落としにくい項目です。年金分割の具体的な進め方は日本年金機構の案内で確認できます。

話し合いの前にそろえたい資料

財産分与は、感情の問題とお金の問題が重なりやすいため、記憶だけで進めると行き違いが起こりがちです。まずは、何があり、いつ取得し、今どうなっているかを把握できる資料を集めます。

  • 預貯金の通帳、取引明細、ネット銀行の履歴
  • 生命保険や学資保険などの証券、解約返戻金が分かる資料
  • 不動産の登記事項や固定資産税の書類、住宅ローン関係書類
  • 車検証、購入時の書類、ローンの残高資料
  • 証券口座、投資信託、積立の残高が分かる資料
  • 退職金の見込額や就業規則など、勤務先制度が分かる資料
  • 年金分割のための情報通知書など、年金関係の確認資料

専業主婦の方は、家計の管理を担っていても、正式な名義資料を手元に置いていないことがあります。その場合でも、通帳のコピー、郵送物、アプリの画面、毎月の引落履歴など、存在を示す手がかりを早めに整理しておくと、後の確認がしやすくなります。資料は一覧にして、取得時期と名義、ローンの有無を書き添えると、話し合いの土台になります。相手が資料を出さないときに裁判所が使える仕組みは、相手の使い込みが疑われるときで条文とあわせて整理しています。

請求できる期間には限りがあります

財産分与を家庭裁判所に求められる期間は、民法768条2項で定められています。令和8年4月1日に施行された改正で、この期間は離婚の時から2年ではなく5年になりました。ただし、改正法の施行前、つまり令和8年3月31日までに成立した離婚については、これまでどおり2年です。

この期間は、相手が話し合いに応じないままでも進みます。離婚したあとに財産の存在に気づくことは珍しくありませんが、期間を過ぎると家庭裁判所に求めることができなくなります。ご自身の場合に残りがどれくらいあるかは、離婚の期限を確認するページで離婚が成立した日を入れると出ます。

まとまらないときの進め方

まずは、共有財産になり得るものを一覧にし、対象にするかどうか、評価の基準をどう考えるかを順に確認します。いきなり結論を急ぐより、「何が争点か」を見える形にするほうが、落ち着いて進めやすくなります。

話し合いでまとまらないときは、家庭裁判所の財産分与請求調停という手続が使われることがあります。何をそろえてから申し立てるかは申立ての準備で確認したいことにまとめています。調停では、感情的な応酬よりも、資料に基づいて整理していく姿勢が大切です。専業主婦であること自体が不利か有利かを単純に決めるのではなく、婚姻中の財産形成への関わり、対象財産の有無、名義や取得時期などを具体的に見ていくことになります。

離婚後の生活を考えるうえでは、財産分与だけでなく、住まい、子どもの費用、当面の生活費も切り分けて考える必要があります。財産分与は過去に築いた財産の整理であり、別居中の生活費や離婚後の養育費とは役割が違います。論点を混ぜないことが、見通しを持つ助けになります。

専業主婦の場合の財産分与では、「収入がないから請求しにくい」と感じるより先に、共有財産になり得るものを丁寧に洗い出すことが大切です。自宅、預貯金、保険、退職金、年金分割の有無を順に確かめ、必要な資料をそろえれば、次に何を話し合うべきかが見えやすくなります。不安が強いときは、一人で結論を急がず、相談窓口で進め方を確認しながら整理していくとよいでしょう。