離婚を考え始めると、相手が預金を急に減らした、保険を解約した、カードの請求が増えた、といった動きが気になることがあります。ただ、財産分与では「減っているから直ちに使い込み」とは扱われません。婚姻中に夫婦で築いた財産なのか、何のために使われたのか、いつの残高を基準に考えるのかを落ち着いて整理することが大切です。ここでは、相手の使い込みが疑われるときの見方と、話し合いの進め方をまとめます。

使い込みが問題になる場面と財産分与の考え方

財産分与の土台になるのは、婚姻中に夫婦の協力で形成した財産です。民法762条1項は、婚姻前から持っていた財産や婚姻中に自己の名で得た財産を特有財産とし、同条2項は、どちらに属するか明らかでない財産は共有に属するものと推定するとしています。名義が相手だけでも、家計から積み立てた預金や保険、投資口座などは共有財産として扱いが問題になることがあります。

このため、相手が自由に出金していたとしても、その原資が共有財産なら、財産分与で考慮すべきだという話になりえます。反対に、親からの相続で得た預金や、結婚前から別に管理していたお金であれば、特有財産として扱われやすく、同じ「減ったお金」でも見方は変わります。分けられる財産の線引きは、対象になる財産と特有財産の違いを先に押さえておくと整理しやすいです。相続で取得した家の場合は相続した家の扱いにまとめています。

また、財産分与では別居した時点を基準時にすることが多く、この時点で存在していた財産をどう評価するかが重要です。基準時より後の動きをどう扱うかは、別居後に増えた財産の考え方でも整理しています。令和8年4月1日施行後の民法768条3項では、寄与の程度が異なることが明らかでないときは相等しいものとされました。割合で争う前に、まず「本来そこにあったはずの財産は何か」を押さえることが大切です。

「使い込み」と見られやすい支出、そうでない支出

問題になりやすい例

次のような支出は、財産分与の場面で説明を求められやすい傾向があります。

  • 別居の前後にまとまった現金を何度も引き出している
  • 夫婦で貯めていた預金を、相手に知らせず自分名義の別口座へ移している
  • 保険を解約し、解約返戻金の行き先がはっきりしない
  • 共有財産で高額な買い物や贈与をしている
  • 投資商品を売却したのに、売却代金の使途がわからない

とくに、離婚の話し合いが具体化した時期と大きな出金の時期が重なると、「財産を減らして分け前を少なくしようとしているのではないか」という争点になりやすくなります。

直ちに使い込みとはいえない例

一方で、生活費、住宅ローン、子どもの学費、医療費、事業に必要な支出など、家計や生活維持のための支出であれば、金額が大きくても直ちに不自然とはいえません。大事なのは、支出の額そのものより、目的が説明できるか、夫婦の生活のためだったかという点です。

逆に、使い込みだと思い込んで感情的に責めると、相手が資料提出を拒むことがあります。まずは「いつ、どの口座から、何に使われたのか」を一つずつ確認する姿勢が、結果的に話し合いを進めやすくします。

主張するときに集めたい資料

使い込みを問題にするには、「減っている気がする」だけでは足りません。別居時点の残高や、そこに至る出入りを示せる資料を集めます。手がかりが少ないときは、相手の財産が分からないときの確認方法も参考になります。

  • 預金通帳、Web明細の保存画面、入出金履歴
  • クレジットカードの利用明細、引落口座の履歴
  • 証券口座の残高推移、売買報告書
  • 保険証券、解約返戻金が分かる書類
  • 自動車や貴金属などを処分したことが分かる書類やメッセージ
  • 家計簿、住宅ローンや学費の支払記録など、支出の目的を示す資料

その一方で、相手の端末への無断ログインや、郵便物の持ち出しのような方法は避けたい対応です。後で資料の扱いが問題になることもあるため、手元にある通帳の写し、家計アプリの共有画面、毎月の引落し記録など、正面から確認できる資料を優先します。

自分では集めきれないときに、裁判所が使える仕組み

「相手が通帳を見せない」「どの銀行に口座があるのかも分からない」という場面でも、手続きの中で動かせる余地があります。条文に二つの仕組みが置かれています。

ひとつは調査の嘱託です。家庭裁判所は、必要な調査を官庁や公署その他適当と認める者に嘱託できるほか、銀行、信託会社、関係人の使用者などに対して、関係人の預金、信託財産、収入その他の事項に関して必要な報告を求めることができます(家事事件手続法62条)。この規定は同法258条1項により家事調停の手続にも準用されるため、審判まで進まなくても使える場面があります。

もうひとつが情報開示命令です。財産の分与に関する処分の審判事件では、家庭裁判所は必要があると認めるときに、申立てにより、または職権で、当事者に対しその財産の状況に関する情報を開示することを命ずることができます(同法152条の2第2項)。令和8年4月1日施行の改正で新設された規定で、同法258条3項により、財産の分与に関する処分の調停事件にも準用されます。

この命令には裏づけがあります。開示を命じられた当事者が正当な理由なく情報を開示しなかったとき、または虚偽の情報を開示したときは、過料に処するとされています(同法152条の2第3項)。黙っていればわからない、が通りにくくなったという点が、以前との違いです。

ただし、どちらも裁判所が「必要な調査」として動かすものです。手がかりがない状態で、相手の財産をすべて洗い出してもらう手続きではありません。前の項で集めた資料をもとに、どの金融機関の、いつの時期の、どの取引を見たいのかを示せるかどうかで、進みやすさが変わります。金融機関名と支店名まで分かっていれば、なおよい状態です。

話し合いで決めることと、まとまらないときの進め方

使い込みをめぐる話し合いでは、「相手が悪いか」だけでなく、最終的にどの財産をどう清算するかまで文書に落とすことが大切です。合意書には、どの口座から、いくらを、いつまでに支払うのか、基準時を別居した時点とするのか、清算条項の対象に何を含めるのかを具体的に書きます。一括で用意できず分割にするなら、滞ったときに残りをまとめて請求できるかどうかも書いておく必要があります(民法137条は、支払を怠ったことを期限の利益の喪失事由にしていません)。書き方は分割払いにするときの書き方にまとめています。文言が曖昧だと、後から「使い込みの分はこの合意に含まれていたのか」で再び争いになりやすいため、財産分与の合意書で押さえたい書き方を確認しておくと安心です。

とくに、慰謝料や養育費まで一括で「すべて放棄した」と読める清算条項は注意が必要です。今回整理したいのが財産分与だけなら、その対象外にする項目を明記するほうが安全です。

話し合いでまとまらないときは、離婚前であれば夫婦関係調整調停(離婚)の中で、離婚条件の一つとして財産分与を話し合うことがあります。離婚後に財産分与だけが残ったときは、財産分与請求調停が選択肢になります。財産分与は、令和8年4月1日施行後の民法768条2項ただし書により、離婚の時から5年を経過すると、家庭裁判所に協議に代わる処分を請求することができなくなります。時間があるように見えても、資料の保存期間や記憶のあいまいさを考えると、気づいた時点で基準時と証拠を整理しておくことが、落ち着いた解決につながります。