離婚時の財産分与では、家や預貯金は分けられても、すぐに現金を用意できないことがあります。そのため「一括では難しいので分割払いにしたい」と考える方は少なくありません。結論からいえば、財産分与を分割払いにすること自体は可能です。ただし、あとで支払いが止まったり、何を分ける約束だったのかが曖昧になったりしやすいため、決め方には注意が必要です。
財産分与は、合意できれば分割払いにできます
財産分与は、夫婦が婚姻中に形成した財産を清算する手続きです。話し合いでまとまるなら、現金一括だけでなく、一定期間の分割払いにする形も考えられます。たとえば、家は一方が住み続け、代わりに相手へ代償金を分割で支払う整理です。
ただし、分割払いにする前に、そもそも何が対象かを切り分けておく必要があります。婚姻前から持っていた財産や、婚姻中でも自己の名で得たことが明らかな財産は特有財産であり、夫婦それぞれに帰属します。一方、どちらに属するか明らかでない財産は共有に属するものと推定されます(民法762条1項・2項)。名義だけで決めず、取得時期や原資も見ていくことが大切です。
また、分け方の割合は、寄与の程度が明らかに異なるといえない限り、相等しいものと考えるのが出発点です(民法768条3項)。専業主婦か共働きかだけで直ちに差がつくわけではありません。分割払いは、あくまで支払方法の問題であって、対象財産や割合の整理が先になります。
離婚後に進めるなら、期間にも注意が必要です。民法768条2項ただし書は、離婚の時から5年を経過したときは、家庭裁判所に協議に代わる処分を請求することができないとしています。当事者どうしの話し合いが5年で禁じられるわけではありませんが、まとまらなかったときに裁判所へ持ち込む道が閉じます。一括で決め切れないからといって先送りにしすぎると、分割払いを提案する立場そのものが弱くなります。
分割払いにするときは、合意書の書き方が重要です
分割払いで一番多いトラブルは、「毎月払うとは言ったが、いつまでか決めていない」「途中で遅れたときの扱いがない」「他の請求まで放棄したことになっていた」といった、書面の曖昧さから起こります。口頭で済ませず、離婚協議書や合意書に具体的に残しておくことが大切です。
- 誰が誰に支払うのか
- どの口座から、どの口座へ支払うのか
- 各回の支払日と最終期限
- 何回に分けるのか
- 支払いが遅れた場合に残額をどう扱うのか
- 振込手数料をどちらが負担するのか
このうち「遅れたときの扱い」は、書かないと効かないところです。民法137条は、債務者が期限の利益を主張できなくなる場合を、破産手続開始の決定を受けたとき、担保を滅失・損傷・減少させたとき、担保を供する義務を負うのに供しないときの3つに限っています。支払を怠ったことは入っていません。つまり、1回や2回滞っただけでは、法律上は残りをまとめて請求できません。そうしたいなら、合意書に書いておく必要があります。
反対に、書かなくても効くものもあります。遅延損害金です。民法419条1項は、金銭債務の不履行による損害賠償の額を、遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によるとしています。法定利率は年3パーセントで、3年を一期として見直されます(404条2項・3項)。しかも2項により、債権者は損害の証明をする必要がありません。約定でこれより高い利率を定めたいなら書く、という関係になります。
これに加えて、財産分与の対象財産を具体的に書くことも欠かせません。預貯金、保険、証券、自動車、退職金のうち婚姻期間に対応する部分、住宅ローン付きの不動産など、何を含めるのかを明示します。基準時も大切で、実務では別居した時点を基準に整理することが多く、同じサイト内の合意書に入れる項目も確認しておくと全体像をつかみやすくなります。
特に注意したいのは、清算条項の書き方です。財産分与だけを決めるつもりだったのに、「これで互いに何も請求しない」と広く書いてしまうと、慰謝料や養育費まで対象に読まれるおそれがあります。養育費は本条項の対象外である旨を明記するなど、何を終わらせ、何を残すのかを分けて書くことが大切です。公正証書にするかどうかも、この段階で検討しておくと整理しやすくなります。
家や住宅ローンがあるときは、名義と税金を別に確認します
分割払いの話が出やすいのは、不動産があるケースです。家を売らずに一方が住み続けるなら、住み続ける側が相手の持分相当を分割で支払う形が考えられます。ただ、家を受け取る合意をしただけでは足りず、不動産は登記をしなければ第三者に対抗できません(民法177条)。共有名義のままにしておくと、利用や処分の場面で話がこじれやすいため、名義変更の時期も合意書に入れておきたいところです。
共有名義の家は、各共有者が持分に応じて使用できますし(民法249条1項)、変更行為には他の共有者の同意が必要です(民法251条1項)。つまり、一方の判断だけで売却や大きな変更を進めることはできません。離婚後もしばらく共有のままにするなら、誰が住むのか、固定資産税や修繕費をどうするのかまで見ておく必要があります。
税金や住宅ローン控除も、分割払いの設計に影響します。住宅ローン控除は、その年の年末にその家に住んでいること、自分がその家の住宅ローンを負っていることが土台になります(租税特別措置法41条)。また、離婚に伴って土地や建物を渡す場合は、譲渡所得や居住用財産の特例の確認が必要になることがあります。ここは思い込みで進めず、名義変更や税金の考え方を先に見ておくと、あとで手戻りしにくくなります。
まとまらないとき、払われないときの進め方
分割払いは、将来の支払いを前提にするぶん、「本当に払えるのか」「財産を隠していないか」という不安が残りやすい方法です。相手の財産が見えにくいときは、まず通帳の入出金、保険会社からの郵便、証券口座の通知、不動産の登記事項など、どこに何がありそうかの手がかりを集めます。整理の仕方は財産の調べ方も参考になります。別居の前後で残高が減っていたときの見方は相手の使い込みが疑われるときにまとめています。
話し合いで開示されない場合は、家庭裁判所の手続きを使うこともあります。財産分与に関する調停や審判では、裁判所が官庁や銀行、勤務先などへ報告を求めることができ(家事事件手続法62条、258条)、財産の状況に関する情報の開示命令が使われる場面もあります(家事事件手続法152条の2第2項、258条)。離婚後に話し合いがまとまらなければ、財産分与請求調停を検討することになります。
また、分割払いの約束をしても、支払われなければ自動的に回収できるわけではありません。未払い時に備えるなら、調停調書や、強制執行に使える書面になる形での公正証書など、執行の土台になる書面を意識して作ることが大切です(民事執行法22条)。ただし、どの方法が使えるかは書面の作り方で変わるため、合意の段階で確認しておくと安心です。
財産分与を分割払いにできるか、という問いへの答えは「できることはあるが、書き方と準備が大切」です。対象財産、基準時、名義変更、未払い時の対応まで見通しておくと、あとから困りにくくなります。




