養育費の支払いが止まったとき、「履行勧告で本当に動いてもらえるのだろうか」と感じる方は少なくありません。履行勧告は、家庭裁判所から相手に支払いを促してもらう手続きで、話し合いだけでは進まない場面で使われます。ただし、できることには限界もあります。ここでは、履行勧告の効果、向いている場面、そして動かないときに残っている段を整理します。

養育費の履行勧告で期待できる効果

履行勧告は、家庭裁判所で決まった養育費について、相手に「取り決めどおりに支払ってください」と促してもらうための手続きです。根拠は家事事件手続法289条1項で、権利者の申出があるときは、家庭裁判所がその義務の履行状況を調査し、義務者に履行を勧告することができるとされています。審判だけでなく、調停や調停に代わる審判で定められた義務にも準用されます(同条7項)。調停調書で決めた養育費でも使える、ということです。養育費は、離婚するときに子の監護に要する費用の分担として協議で定めるものとされており、その根拠は民法766条にあります。すでに調停や審判で内容が決まっているのに支払いが遅れているとき、家庭裁判所からの働きかけが入ることで、相手が放置しにくくなることがあります。

特に、相手が「そのうち払うつもりだった」「何月分が残っているか整理できていない」という状態なら、履行勧告がきっかけになって支払いが再開することはあります。また、未払いが始まった時期や、どの月の分が残っているかを整理する入口にもなります。未払い時の全体像は、養育費が支払われないときの手続きでも流れを確認できます。

一方で、履行勧告は「まず反応を促す」性格の強い手続きです。取り立てそのものを行うものではないため、これだけで回収まで完了するとは限りません。

ただし、何も調べないわけではありません。同条5項は、調査及び勧告に必要な調査として、官庁などへの嘱託のほか、銀行や関係人の使用者に対して、預金や収入などについて必要な報告を求めることができるとしています。差押えのように取り立てる手続きではありませんが、裁判所が状況を調べたうえで促す、という形です。相手が連絡に応じるか、裁判所からの促しを受けて支払う気持ちがあるかで、実際の効果は変わります。

履行勧告が向いている場面と、使う前の確認点

履行勧告が向いているのは、「家庭裁判所で養育費を決めたが、未払いが出ている」という場面です。反対に、口約束だけの場合や、離婚協議書を作っただけで家庭裁判所の手続きを経ていない場合は、別の進め方を考えることになります。履行勧告を申し立てる前に、まず次の点を整理しておくと動きやすくなります。

  • 養育費をどの書面で決めたか
  • 未払いが何月分から続いているか
  • 毎月の支払期日をどう定めたか
  • 実際に入金がなかったことを示す通帳や振込履歴があるか
  • 相手とやり取りした記録が残っているか

ここで大事なのは、履行勧告は「今ある取り決めを守ってもらう」ための手続きであって、金額の見直しをする場ではないという点です。養育費の額は、家庭裁判所が公開している養育費・婚姻費用算定表を出発点に、双方の収入、収入の種類、子どもの人数と年齢を当てはめて考えるのが基本です。表では、支払う側と受け取る側の収入の組み合わせから、標準的な水準を読み取ります。相手から「収入が下がった」「再婚して事情が変わった」と言われても、その場で自動的に金額が変わるわけではありません。事情変更があるなら、別に見直しの手続きを考える必要があります。

履行勧告の限界と、待ちすぎないほうがよい理由

履行勧告のいちばん大きな限界は、相手が応じなかったときに、それ自体で差押えまで進むわけではないことです。家庭裁判所からの働きかけとして意味はありますが、支払う意思が乏しい相手に対しては、効果が弱く感じられることもあります。したがって、「まず履行勧告をしてみる」のはよくある選択ですが、そこで止まってしまわないことが大切です。

もう一つ気をつけたいのが時効です。養育費の請求権は、原則として権利を行使できることを知った時から5年で消滅時効にかかります(民法166条1項1号)。また、判決や審判などで確定した権利は10年とされますが(民法169条1項)、その時点でまだ支払期日が来ていない将来分にはその扱いが及ばないため、毎月分ごとに管理する視点が必要です(同条2項)。数え方は未払いの養育費と時効にまとめています。

つまり、履行勧告を申し立てている間も、「どの月の未払いが残っているのか」を曖昧にしないことが重要です。支払いが再開する見込みが低いのに長く待つほど、回収の選択肢を狭めるおそれがあります。履行勧告は有効な入口になり得ますが、それだけに期待をかけすぎないほうが安心です。

履行勧告で動かないときの次の手順

先に、履行命令という段があります

勧告でも動かないとき、いきなり強制執行に進むしかないわけではありません。家事事件手続法290条1項は、履行を怠った者について、権利者の申立てにより、家庭裁判所が相当の期限を定めて履行をすべきことを命ずる審判ができるとしています。これが履行命令です。勧告と同じく、調停で定められた義務にも準用されます(同条3項)。

勧告との違いは2つあります。ひとつは、命じる前に義務者の陳述を聴かなければならないとされていること(同条2項)。もうひとつが制裁です。正当な理由なくその命令に従わないときは、過料に処するとされています(同条5項)。勧告には制裁がありませんが、命令にはあります。

それでも、過料は国に納めるもので、こちらへ未払い分が入るわけではありません。回収そのものは、やはり強制執行で考えることになります。勧告、命令、強制執行は段になっていて、どこまで進むかは相手の出方で決めることになります。相手が生活保護を受けているときの見方は相手が生活保護のときの養育費にまとめています。

強制執行を考えるとき

相手が履行勧告に応じないときは、強制執行を検討する段階に入ります。強制執行には、民事執行法22条で定める「使える書面」が必要で、養育費では調停調書や審判書のほか、強制執行認諾文言のある公正証書が問題になります。給与の差押えでは、養育費のような扶養義務にかかる債権について特則があり、一般の債権とは扱いが異なる部分があります(民事執行法151条の2、152条3項)。進め方は、給与差押えと強制執行の進め方で先に確認しておくと整理しやすいです。

金額の見直しや、そもそも取り決めが不十分なとき

未払いの背景に、金額が今の生活実態と合っていない問題があるなら、回収とは別に見直しを考えることもあります。見直しでは、取り決め時と比べて何がどう変わったかを具体的に整理し、家庭裁判所の算定表で、双方の収入、給与か自営業か、子どもの人数と年齢を当てはめて検討します。自営業なら、売上ではなく必要経費や専従者給与の見方が問題になることもあります。事情変更があると感じるときは、養育費の取り決めを変えたいときもあわせて確認してみてください。

また、まだ家庭裁判所で養育費を決めていないなら、履行勧告より先に養育費請求調停で取り決めそのものを整えることが必要です。焦って一つの手続きに絞るより、「支払いを促す手続き」と「回収する手続き」を分けて考えると、次に何をするかが見えやすくなります。履行勧告は役立つ場面のある手続きですが、効果を正しく理解しておくことが、その後の動きを落ち着いて決める助けになります。