相手が生活保護を受けていると聞くと、養育費はもう決められないのではないか、と不安になりがちです。ですが、生活保護を受けていることだけで、養育費が自動的になくなるわけではありません。大切なのは、誰が子どもを主に育てているか、今の収入をどう見るか、すでに取り決めがあるかを分けて確認することです。
生活保護だけで養育費の結論は決まりません
養育費は、離婚するときに子の監護に要する費用の分担として協議で定めるものです(民法766条1項)。そのため、相手が生活保護を受けているという一点だけで、「必ず払えない」「必ず請求できない」とは言い切れません。
生活保護は、要件を満たす限り無差別平等に保護を受けられる制度であり(生活保護法2条)、資産や能力の活用が要件とされています(同法4条1項)。一方で、扶養義務者の扶養は保護に優先するとされており(同法4条2項)、保護を受けていることと、子どもの生活費をどう分担するかは、切り離して整理する必要があります。
| 場面 | まず確認したいこと |
|---|---|
| 支払う側が生活保護 | 現在の収入、就労の見込み、受給開始の時期、既存の取り決めの有無 |
| 受け取る側が生活保護 | 養育費の取り決め内容、入金記録、福祉事務所へ伝えるべき事情 |
支払う側が生活保護のときは、収入の見方を丁寧に確認します
まず必要なのは、双方の収入資料です。家庭裁判所が公表している養育費・婚姻費用算定表は、双方の収入、子どもの人数、年齢を当てはめて、標準的な考え方を確認するためのものです。相手が生活保護を受けていても、直ちに「収入はゼロ」と決めつけるのではなく、給与所得者か自営業か、いつから受給しているか、働こうと思えば働ける状態かどうかを見ます。自営業では、青色申告特別控除、減価償却費、専従者給与など、税金の申告上の数字と養育費で見る収入が同じとは限りません。収入の見方は養育費の計算でどの収入を見るのかを先に押さえておくと整理しやすくなります。
すでに養育費の取り決めがある場合も、相手が生活保護を受け始めたからといって、一方的に支払いを止めてよいわけではありません。受給の背景に、失業、病気、事業不振などがあるのか、どの程度続く見込みなのかで、変更を考えるかが変わります。反対に、受け取る側としても「生活保護だから無条件で減額に応じる」と考える必要はありません。取り決め時と比べて何がどう変わったかを、決定通知や収入資料で確認することが大切です。事情変更があるときの考え方は養育費の変更を考えるページも参考になります。
受け取る側が生活保護でも、取り決めを残す意味はあります
受け取る側が生活保護を受けている場合でも、養育費を取り決める意味は小さくありません。子どもの生活費を父母でどう分担するかを明文化しておくと、後から事情が変わったときに、何を基準に見直すかがはっきりするからです。生活保護は申請に基づいて始まる制度です(生活保護法7条)。受給中に養育費の合意をした、実際に受け取った、反対に滞っている、といった事情は、福祉事務所で確認できるよう、合意書や入金記録を残しておくと説明しやすくなります。
知っておきたいのが、受け取った養育費がどう扱われるかです。生活保護法8条1項は、保護を、需要のうち「その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度」において行うとしています。つまり、養育費という金銭を受け取れば、その分は需要を満たすものとして考慮されるのが基本です。受け取った額がそのまま手取りの上積みになるとは限りません。
あわせて、届出は義務です。同法61条は、被保護者に収入や生計の状況について変動があったときは、すみやかに保護の実施機関または福祉事務所長へ届け出なければならないとしています。養育費の取り決めをした、入金が始まった、止まったといった変化は、この届出の対象になります。実際の取り扱いは福祉事務所が判断するため、合意書と入金記録を手元に置いて相談してください。
もうひとつ、相手が払わないときに動ける仕組みがあります。同法77条1項は、被保護者に対して民法の規定により扶養の義務を履行しなければならない者があるとき、保護費を支弁した都道府県または市町村の長が、その義務の範囲内で費用を徴収できるとしています。負担すべき額について協議が調わないときは、保護の実施機関の申立てにより家庭裁判所が定めます(同条2項)。生活保護を受けているから養育費の話は終わり、ではありません。自治体の側から相手へ向かう道が、条文に用意されています。受け取る側が生活保護かどうかにかかわらず、未払いのときに自分で打てる手は履行勧告と履行命令の違いにまとめています。
また、生活保護と並んで、ひとり親家庭では別の支援制度が関わることがあります。養育費の有無や受け取り状況を、自治体で求められる書類に合わせて整理しておくと、後の手続きが進めやすくなります。ここで大事なのは、養育費の話と公的支援の話を混ぜてしまわないことです。子どものために誰がどこまで分担するかを決める作業と、受給中の届出や説明の作業は、別々に落ち着いて進めるほうが整理しやすいでしょう。
話し合いがまとまらないときは、調停で資料をそろえて進めます
生活保護が関わると、相手が本当に支払えない状態なのか、資料を十分に出していないだけなのかが見えにくくなります。話し合いでは、受給の有無だけでなく、現在の収入資料、受給開始の時期、就労制限の有無、子どもの人数と年齢、いつまで支払うのかを順に確認します。そのうえで、家庭裁判所の算定表に当てはめ、標準的な考え方から外れる事情があるかを見ます。数字だけを先に決めようとすると行き違いが起きやすいため、前提事情の確認が先です。
合意できないときは、養育費請求調停を使う方法があります。調停が不成立で終わっても、養育費のような別表第二の事件は、調停の申立て時に審判の申立てがあったものとみなされます(家事事件手続法272条4項)。そのため、話し合いがまとまらなかったらすべて振り出しに戻る、というわけではありません。流れに不安がある場合は、先に養育費の調停の進み方を確認しておくと、準備する資料を落ち着いて整理できます。
生活保護が関わるときこそ、口約束で終えないことが大切です
相手が生活保護を受けているケースでは、状況が変わりやすいことがあります。だからこそ、口約束のままにせず、いつから支払うのか、何を含むのか、いつまでを目安にするのか、事情が変わったときはどう協議するのかを文書に残しておくことが重要です。面会交流と養育費は切り離して決め、送金方法や連絡手段も決めておくと、その後の行き違いを減らしやすくなります。
相手が生活保護だからといって、最初から請求をあきらめる必要はありませんし、逆に必ず従来どおり支払われるとも限りません。まずは収入資料を集め、算定表で標準的な見方を確認し、必要なら変更や調停を検討する。この順番で進めると、感情だけで判断しにくい場面でも、次に何をすればよいかが見えやすくなります。




