養育費が払われなくなると、「もう時効かもしれない」と不安になる方は少なくありません。ただ、養育費の未払いは、期間だけを見て判断できるものではありません。取り決めをどんな形で残したか、未払いがいつから続いているか、その後にどんな連絡をしてきたかで、確認すべき点が変わります。ここでは、時効を考える前に何を見ればよいか、どの手続きにつながるのかを順に整理します。

まずは「時効」より先に3つ確認します

養育費は、離婚するときに子の監護に要する費用の分担として協議で定めるものです(民法766条)。そのため、未払いが起きたときは、最初に次の3点を確かめることが大切です。

  • 取り決めをどんな形で残したか
  • 未払いがいつの分から始まっているか
  • 相手の勤務先や口座など、回収に必要な情報があるか

特に大きいのは、取り決めの形です。調停調書、審判書、強制執行認諾文言付きの公正証書がある場合と、口約束やメッセージのやり取りしかない場合では、進め方がかなり違います。時効を気にして慌てて結論を出すより、まず手元の書類を集めて、何が証拠になるのかをはっきりさせたほうが次の一歩を決めやすくなります。

また、未払いが長く続いていると、古い分と最近の分が混ざりやすくなります。支払期日、入金が止まった月、督促した日付、相手からの返答を時系列で並べておくと、後から整理しやすくなります。

取り決めの形で、できる対応が変わります

調停調書・審判書・公正証書がある場合

家庭裁判所の調停や審判で決めた養育費、または強制執行認諾文言付きの公正証書で決めた養育費は、未払い時の対応が比較的はっきりしています。強制執行に使える書面は民事執行法22条で定められており、書面が整っていれば差押えの手続きにつなげられます。

調停や審判で決めたものであれば、家庭裁判所に履行勧告・履行命令を求めることも検討できます(家事事件手続法289条・290条)。どちらを選ぶかで打てる手が変わるので、履行勧告と履行命令の違いもあわせてご覧ください。そのうえで支払いが進まないときは、給与や預金の差押えを考えます。養育費は扶養義務に関わる債権として、給与差押えに特例が置かれており、民事執行法151条の2、152条3項が関わります。手順の全体像は、養育費が支払われないときの手続きも参考になります。

口約束やメッセージだけの場合

一方で、口約束だけ、離婚協議書に執行のための形が整っていない、メッセージアプリのやり取りしかない、といった場合は、すぐに差押えへ進めないことがあります。このときは、未払い分を含めて、まず養育費の取り決めを裁判所の手続で整えることを考えます。

話し合いでまとまらなければ、養育費請求調停を利用します。調停が不成立で終わっても、養育費は別表第二の事項なので、申立て時に審判の申立てがあったものとみなされ、そのまま審判で判断されます(家事事件手続法272条4項)。流れを先に知っておきたいときは、調停の進み方と準備を確認しておくと見通しが立てやすくなります。

時効は、1か月分ずつ進みます

ここが出発点です。養育費は毎月の支払いなので、各月分が別々に時効にかかります。「もう何年も経ったから全部だめ」ではなく、古い月の分から順に消えていくという形です。先月分はまだ生きていて、5年前の分だけが消えている、ということが起こります。

期間の原則は民法166条1項1号で、権利を行使することができることを知った時から5年と定められています。毎月の支払日が来て、受け取れるはずだと分かっていた状態なら、その月の分はそこから数えます。

調停調書があっても、すべてが10年ではありません

ここは誤解しやすいところです。

民法169条1項は、確定判決や確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利の時効期間を10年としています。調停で合意して調書に記載されたときは、その記載が確定した審判と同一の効力を持つと家事事件手続法268条1項が定めているため、この10年が問題になります。

ところが、同じ169条の2項が「確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない」と定めています。つまり、調停が成立した時点でまだ支払日が来ていない先々の分には、10年は及びません。

どの分か 考え方
調停が成立した時点で、すでに滞っていた分 169条1項により10年が問題になる
調停成立後、毎月発生していく分 169条2項により対象外。原則どおり5年で考える

「調停調書を作ったから10年は安心」とはならない、ということです。書面があっても、払われないまま放置すれば、新しく発生した月の分から順に消えていきます。

なお、時効は相手が主張して初めて効果が出るものであり、請求や承認があった場合の扱いなど、個別の事情で結論が変わることがあります。期間が近いと感じたら、そこで諦めず、早めに窓口で確認してください。

「いつの分か」を整理しておきます

以上のとおり、養育費の未払いは月ごとに扱いが分かれます。実際には、いつ支払う約束だったのか、毎月の支払日がどう決められていたのか、途中で一部だけ払われたことがあるのか、といった事情が確認の中心になります。

たとえば、離婚時の取り決めに「毎月末日まで」「進学時に見直す」などの定めがあるなら、その内容を見落とさないことが重要です。終期が曖昧だと、未払い分の整理だけでなく、これから先の請求の見通しも立てにくくなります。取り決めに不足がある場合は、今後同じことが起きないよう、支払日、いつまで払うか、振込方法を明確にしておく必要があります。

また、相手から「今は払えない」「来月まとめて払う」といった連絡が来ていたかどうか、どんな形で残っているかも大切です。時効の成否は個別事情で見方が分かれることがあるため、メッセージ、メール、振込履歴、書面をまとめて保存しておくと、後の確認がしやすくなります。古い通帳を処分してしまう前に、入出金の記録を見直しておくと安心です。

未払いの確認とあわせて、元の金額の根拠も見直します

未払い分を請求するときでも、元の養育費がどう決まっているのかは大切です。養育費の記事では金額そのものより、何で決まるかを押さえておく必要があります。家庭裁判所が公開している養育費・婚姻費用算定表は、双方の収入、収入の種類、子どもの人数と年齢を当てはめて、標準的な金額帯を確認するための資料です。表の見方は、裁判所の説明書でも整理されています。

特に、当時の収入資料が曖昧なままだと、未払いの整理と変更の話が混ざることがあります。給与所得者なのか自営業なのか、転職や休職があったのか、相手が資料を出さないのかによって、確認の仕方は変わります。収入の見方で迷うときは、養育費の計算で収入をどう見るかを先に押さえておくと、算定表の使い方が理解しやすくなります。

なお、支払う側の収入減少や再婚などで事情が変わっている場合は、未払い分の請求と、これから先の額の変更を分けて考えるほうが整理しやすい場面があります。過去の未払いをどうするかと、将来分をどう見直すかは、同じ話に見えても確認資料が異なるためです。

迷ったときは、次の順で整理すると進めやすくなります

  1. 離婚協議書、公正証書、調停調書、審判書の有無を確認する
  2. 未払いが始まった月と、各月の支払期日を一覧にする
  3. 振込履歴、督促のメッセージ、相手の返答を保存する
  4. 相手の勤務先や口座など、差押えに必要な情報を整理する
  5. 書面が弱い場合は養育費請求調停を検討する

養育費の未払いでは、「もう遅いかもしれない」と感じて動けなくなることがあります。ただ、時効かどうかは一言で決められず、書面の形と記録の残し方で見通しが変わります。まずは手元の資料を整え、未払いの範囲をはっきりさせることが出発点です。そのうえで、履行勧告・履行命令、強制執行、調停のどれが合うのかを落ち着いて選んでいきましょう。