「不倫相手に慰謝料を請求したら、あとで配偶者に半分返ってしまうのでは」「求償権があると言われたけれど、何を意味するのかわからない」と不安になる方は少なくありません。相手にも配偶者がいる場合は、求償に加えて相手方の家庭からの請求も重なります。その場合の整理はW不倫のときの請求先と注意点にまとめています。求償権は、慰謝料を受け取る側だけでなく、誰に請求するか、どんな書面を残すかにも関わります。ここでは、不貞の慰謝料を前提に、仕組みと確認点を落ち着いて整理します。
慰謝料の求償権とは何か
不貞による慰謝料では、配偶者と不倫相手の双方に責任が問題になることがあります。故意または過失で他人の権利を侵害した者が損害賠償責任を負うことは民法709条、数人が共同して損害を与えたときに各自が連帯して責任を負うことは民法719条が根拠です。つまり、被害を受けた側から見ると、相手方を1人に絞る場合も、双方に求める場合もありえます。
このとき、支払った側から、もう一方へ内部的な精算を求める権利が求償権です。考え方の土台になるのが民法442条で、連帯して責任を負う者の1人が弁済したときは、他の者に対して、それぞれの負担部分に応じた額を求められるとされています。
ここで見落とされやすいのが、条文が「その免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず」と定めている点です。全額を払い終えていなくても、支払った分に応じた求償は考えられます。 分割払いの途中で求償の話が出てくることがあるのは、このためです。「まだ半分も払っていないのだから関係ない」と考えていると、前提がずれます。
大切なのは、求償権は「支払った人どうし」の問題だという点です。 被害者が最初から半分しか請求できない、という意味ではありません。もっとも、すでに一方から支払いを受けた分は、もう一方への請求の整理に影響します。二重に受け取る前提では考えられないため、誰からどの名目で支払いを受けたのかをはっきりさせておくことが重要です。
どんな場面で求償権が問題になるのか
不倫相手だけに請求したとき
実際には、配偶者ではなく不倫相手に先に請求するケースがあります。この場合、不倫相手が慰謝料をまとめて支払うと、その後に配偶者へ求償する可能性があります。そのため、「自分の請求で、相手方と配偶者の間にどんなやり取りが起きるのか」が気になるのは自然なことです。
ただし、被害者がまず考えたいのは、請求先を決める前に、事実関係と証拠、相手の認否、支払い方法を整理することです。不倫相手への請求の流れそのものは、不倫相手に請求するときの進め方も参考になります。相手から「求償権があるから一部しか払わない」と言われても、それだけで話が決まるわけではありません。
先に一方と示談したとき
求償権が特に問題になりやすいのは、先にどちらか一方と示談した場面です。たとえば不倫相手とだけ合意書を作ったのに、配偶者への請求をどう扱うかを書かなかったため、後から認識の違いが出ることがあります。受け取ったお金が、どの損害に対する支払いなのか、今後の請求をどこまで清算したのかが曖昧だと、求償の前提もわかりにくくなります。
このため、示談や離婚協議では、慰謝料と財産分与、養育費などを同じ言葉でまとめず、名目を分けて確認する姿勢が大切です。書面の作り方は、慰謝料の取り決めを残すときの注意点にも整理があります。
請求前に確認したいポイント
求償権をめぐる行き違いを減らすには、請求前の整理が欠かせません。次の点を、時系列に沿って確認しておくと話し合いがぶれにくくなります。
- 不貞があった時期、回数、婚姻関係への影響
- 配偶者と不倫相手のどちらに、どの順番で請求するか
- すでに受け取った金銭や、口頭でもした約束がないか
- メッセージ、写真、行動の記録など、事実を裏づける資料があるか
また、民法442条は「それぞれの負担部分に応じた額」を求償できるとしています。負担部分は、いつでも機械的に二分の一になると考えれば足りるわけではありません。不貞への関与の程度、婚姻関係の状況、すでに誰がどこまで支払ったかなど、争点になりうる事情があります。相手が当然のように「半分だけ」と言ってきたときほど、言葉の意味を分けて受け止めることが大切です。
期間にも注意が必要です。不貞の慰謝料請求は、不法行為の消滅時効として、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で消滅すると定められています(民法724条)。いつから数えるかで見通しが変わるため、迷うときは慰謝料請求の時効の考え方を確認しつつ、手元の記録を早めに整理しておくと安心です。
話し合いと書面化で気をつけること
当事者どうしの話し合いでまとまらない場合は、裁判所の手続きに進むことがあります。ここで気をつけたいのは、相手が誰かによって進む場所が変わることです。配偶者との間で離婚に伴う慰謝料を扱うなら家庭裁判所ですが、不倫相手のように夫婦以外の相手へ請求する場合は、原則として地方裁判所や簡易裁判所での手続きになります。請求先を決めてから、どこへ持ち込む話なのかを確かめておくと、手戻りが減ります。
手続きの中では、支払うかどうかだけでなく、誰がどの名目で負担するのか、すでに支払われた分をどう整理するのかも論点になりえます。求償権そのものは支払った側どうしの問題ですが、被害者としては、合意の内容が後で読み違えられない形になっているかを意識しておきたいところです。
特に書面では、当事者、対象となる行為、支払時期、分割払いにするか、支払われなかったときの遅延損害金をどうするかを明確にします。さらに、清算条項を入れるなら、その範囲が重要です。たとえば「財産分与も含めて放棄した」と読める広い表現にするのか、慰謝料以外は対象外である旨を明記するのかで、後の解釈に差が出ます。求償権との関係が気になるときほど、何を清算し、何を残すのかを切り分けて書くことが大切です。
求償権は、言葉だけ聞くと難しく感じますが、要点は「誰が外向きに支払い、誰が内向きに負担するか」を分けて考えることにあります。請求先を決める前に、事実、期間、書面の範囲を整理しておけば、必要以上に振り回されにくくなります。判断に迷う場面では、相談窓口の案内も活用しながら、記録をそろえて一つずつ確認していきましょう。




