離婚のときに家を受け取ることになっても、話し合いで決めただけでは名義は動きません。所有権移転登記という手続きが残ります。そして、この手続きは後回しにするほど難しくなります。ここでは、なぜ急ぐ必要があるのか、何をそろえるのかを整理します。

登記をしないと、自分のものだと主張できません

まず押さえておきたいのが、民法177条です。「不動産に関する物権の得喪及び変更は、…その登記をしなければ、第三者に対抗することができない」と定めています。

離婚協議書に「この家は妻が取得する」と書いても、それは夫婦の間で通用する約束です。登記が相手名義のままなら、外部に対しては相手が所有者に見えます。

これが現実の問題になるのは、次のような場面です。

  • 相手が家を第三者に売ってしまった
  • 相手の債権者が、その家を差し押さえた
  • 相手が亡くなり、相続が発生した

登記を済ませていれば、これらに対して自分の権利を主張できます。済ませていなければ、協議書を持っていても争うことになります。

時間が経つほど、手続きが重くなります

もう一つの理由が、相手の協力が要ることです。所有権移転登記は、原則として受け取る側と渡す側の双方で申請します。相手の印鑑証明書や書類への押印が必要です。

離婚の直後なら、まだやり取りができることが多いものです。しかし時間が経つと、こうなります。

起きること 手続きへの影響
連絡が取れなくなる 書類をそろえられない
相手が再婚し、協力を渋る 交渉に時間がかかる
相手が亡くなる 相続人全員の協力が必要になる
相手が転居を重ねる 住所のつながりを示す書類が増える

とくに最後の2つは負担が大きくなります。離婚が成立したら、登記までを一続きの作業として考えてください。

共有名義のままにしない

「とりあえず共有のままにして、あとで決めよう」という選択も見かけます。ただ、これは先送りであって解決ではありません。

共有のままだと、売るときに相手の同意が要ります。大きな修繕をするときも同じです。離婚したあとも、家のことで相手と話し続けなければなりません。連絡を取りたくない相手なら、その負担は長く続きます。同意が要るという点は民法251条1項に根拠があり、売る時期の判断にも関わります。家を売るタイミングの考え方もあわせてご覧ください。

さらに、どちらかが亡くなれば、その持分は相続人へ移ります。面識のない相手と共有することになりかねません。住み続ける側に名義を寄せるのか、売って清算するのか、離婚の話し合いのなかで決め切っておくことが、結果として楽になります。

用意するものと、費用の考え方

財産分与による所有権移転登記では、一般に次のようなものが必要になります。

  • 登記識別情報(いわゆる権利証)。相手が持っています
  • 相手の印鑑証明書。取得後3か月以内のもの
  • 離婚の記載がある戸籍。離婚成立後に取得します
  • 財産分与の合意書。登記の原因を示すものです
  • 固定資産評価証明書。登録免許税の計算に使います

費用としては登録免許税がかかります。固定資産税評価額をもとに計算する仕組みで、家の評価額によって変わります。司法書士に依頼する場合は、その報酬も別に見ておく必要があります。

なお、住宅ローンが残っている家では、名義を動かす前に確認することがあります。詳しくは名義・ローン・保証人を分けて考える方法を見てください。

ローンが残っていると、登記だけでは終わりません

ここは見落としやすい点です。家の名義を移しても、住宅ローンの債務者は変わりません。ローンの相手は金融機関であり、夫婦の合意が及ぶ範囲の外にあります。

さらに、抵当権が設定されている家では、金融機関の承諾なく名義を移すと、契約上の問題になることがあります。多くの住宅ローン契約には、担保物件の処分に金融機関の承諾を要する趣旨の定めが置かれています。

順番としては、先に金融機関へ相談し、そのうえで登記を進めるのが安全です。承諾が得られない場合にどうするかまで、書面で決めておくと後戻りが減ります。書き方は公正証書で残す確認点にまとめています。

相手が応じないときは

財産分与の合意はあるのに、相手が登記に協力しない。この場合も方法はあります。

調停や審判で財産分与の内容が定まっていれば、その調書や審判書をもとに手続きを進められる場面があります。「話し合いで決めただけ」と「裁判所で決まった」とでは、打てる手が変わります。

協議離婚で書面だけを作る場合でも、相手が応じない可能性が読めるなら、登記に協力する義務を明記しておくことに意味があります。ただし、協力義務は金銭の支払いではないため、公正証書に強制執行認諾文言を付けても、それ自体を強制的に実現することはできません(民事執行法22条5号)。この点は先に知っておいてください。

まとまらないときは、家庭裁判所の財産分与請求調停を検討します。準備は申立ての整理にまとめています。

登記の時期と、税の確認も一緒に

登記をいつ行うかは、税の扱いにも関わります。離婚が成立する前に名義を移すのか、成立後に財産分与として移すのかで、考え方が変わる場面があります。

また、住宅ローン控除は、その年の12月31日まで引き続き居住していることと、自分が住宅ローンを負っていることが前提です(租税特別措置法41条)。名義と居住と借入れの組み合わせが変わると、控除の扱いも変わります。あわせて住宅ローン控除と財産分与の確認点を見ておくと、順番を決めやすくなります。

進めるときの順番

  1. 登記事項証明書で、現在の名義と抵当権の有無を確認する
  2. 住宅ローンが残っているなら、先に金融機関へ相談する
  3. 財産分与の合意内容を書面にする。対象の不動産を特定して書く
  4. 相手の印鑑証明書など、期限のある書類の取得時期を合わせる
  5. 離婚成立後、戸籍を取得して登記を申請する

話し合いがまとまらないまま時間が過ぎると、財産分与そのものの期限にも近づきます。民法768条2項ただし書により、令和8年4月1日以後に成立した離婚は離婚の時から5年、それより前は2年です。残りは期限カレンダーで確認できます。

不動産の登記は、離婚の手続きのなかでも最後に回されやすい項目です。ただ、登記が終わるまでは、合意しただけの状態です。離婚が成立したら、そこからもう一手間あると考えて動いてください。