別居後の生活費として婚姻費用を考えるとき、「算定表より多く求められることがあるのか」と不安になる方は少なくありません。婚姻費用の分担義務は民法760条に基づくもので、離婚が成立するまでは別居中でも続きます。ただ、家庭裁判所の算定表はあくまで標準的な目安です。事情によっては、表の範囲だけでは整理しきれず、月額に上乗せするのか、別に協議するのかを分けて考える必要があります。

まず知っておきたい、算定表の位置づけ

家庭裁判所が公開している養育費・婚姻費用算定表は、双方の収入、子どもの人数と年齢、どちらと暮らしているかを当てはめて、標準的な分担額の目安を確認するためのものです。使い方は説明書にも整理されており、まずは自分たちがどの表のどの区分に入るかを見るのが出発点です。

ただし、算定表は一般的な生活関係を前提に作られています。そのため、毎月の生活費として通常見込まれているものは表の中で考える一方、家計の中でも負担が大きく、個別の事情を丁寧に見ないと公平になりにくい支出は、表の外で検討されることがあります。婚姻費用に何が含まれるかは、月額に含まれるものと別に協議しやすいものを分けて確認しておくと整理しやすいです。

分かれ目を理解するには、表の作られ方を一度見ておくと早いです。算定表は、双方の総収入をそのまま分けているのではありません。収入に応じた割合をかけた「基礎収入」を土台にし、そこから親と子に生活費を割り振っています。この割合は収入が高いほど小さくなる形で、司法研究では給与所得者で54〜38パーセント、自営業者で61〜48パーセントの範囲が示されています。収入が2倍になっても、分担額が2倍にはならない理由がここにあります。

割り振りに使われるのが生活費指数です。裁判所の説明書では、親を100として、0〜14歳の子を62、15歳以上の子を85としています。子どもが15歳になると指数が上がるため、同じ収入でも表の欄が変わります。記事の後半で「年齢区分の変わり目に見直しの時期を入れておく」と書くのは、この仕組みがあるからです。

ここから分かるのは、表は「標準的な家庭なら、この指数で足りる」という前提で組まれているということです。つまり「算定表を超える」というより、表がはじめから前提にしていない支出を、別に乗せるかどうかの話になります。私立の学費、続く治療費、二重の住居負担が繰り返し論点になるのは、どれも標準の指数では吸収されない支出だからです。

また、「算定表を超える」という言い方には、月額そのものを高く見る場面だけでなく、月額とは別に特定の費用を分担する場面も含まれます。住宅ローン、学費、治療費などを同じ箱で考えると、話し合いがかみ合いにくくなります。

算定表だけでは決めにくい事情

教育費

子どもの教育費は、通っている学校の種類、進学の経緯、夫婦のこれまでの合意、家計に照らして無理のない範囲かどうかで見られ方が変わります。特に私立学校の学費や受験に関わる支出は、当然にすべて上乗せされるとは限りませんが、従前の生活や進学の見通しが共有されていたなら、表の外で分担が議論されることがあります。

医療費や継続的な支出

通院が長く続く、特別な療養が必要、子どもの特性に応じた支援費用がかかるといった事情も、標準的な家計の範囲では収まりにくいことがあります。この場合は、一時的な出費なのか、継続的な支出なのかを分けて示すことが大切です。毎月の婚姻費用に組み込むのか、その都度精算するのかで、主張の形も変わります。

住まいに関する負担

別居後の住居費や住宅ローンは、感情的な対立になりやすいところです。ただ、住宅ローンを払っているからその分を必ず婚姻費用から差し引ける、あるいは必ず上乗せできる、と単純には言えません。誰が家に住み続けるのか、ローンが住居費の代わりになっているのか、二重の住居負担が生じているのかなど、事実関係の整理が必要です。月額に上乗せするのか、別に協議するのかを先に分けて考えると、論点が見えやすくなります。

収入の見え方によって、表の読み方が変わることもあります

算定表を超えるかどうかは、支出だけでなく、収入をどう把握するかでも変わります。給与明細どおりに見れば足りるとは限らず、自営業では必要経費の内容、臨時の減収かどうか、会社から受けている利益の有無などが争点になりやすいです。収入の見方に迷うときは、自営業で問題になりやすい収入の考え方も参考になります。

とくに、別居前に家族が事業を手伝い、青色事業専従者給与として処理していた世帯では、別居後に収入の見え方が変わることがあります。これは所得税法57条が「生計を一にする」「専らその事業に従事する」ことを前提にしているためです。別居後も従前どおりの数字だけをそのまま当てはめると、実態を外すことがあります。

また、算定表の収入帯を超える高い収入がある場合は、表を機械的に当てはめるより、説明書や司法研究が示す考え方に沿って、生活実態と子どもの必要を個別に見ていくことがあります。逆に、相手が「収入がない」「下がった」と言うときも、資料が不十分なら、その前提自体を確認し直す必要があります。この場面の見方は相手が無職のときの考え方にまとめています。

相手が資料を出さないときのために、条文に仕組みが置かれています。婚姻費用の分担に関する処分の審判事件では、家庭裁判所は必要があると認めるときに、申立てにより、または職権で、当事者に対しその収入及び資産の状況に関する情報を開示することを命ずることができます(家事事件手続法152条の2第1項2号)。令和8年4月1日施行の改正で新設された規定で、同法258条3項により、婚姻費用の分担に関する処分の調停事件にも準用されます。

開示を命じられた当事者が正当な理由なく情報を開示しなかったとき、または虚偽の情報を開示したときは、過料に処するとされています(同法152条の2第3項)。あわせて、家庭裁判所は銀行や勤務先などに対して、関係人の預金や収入について必要な報告を求めることもできます(同法62条、調停には同法258条1項により準用)。資料がそろわないまま相手の説明だけで進めなくてよい、ということです。

主張するときは、上乗せの理由と資料を対応させます

算定表を超える事情を伝えるときは、「大変だから増やしてほしい」だけでは伝わりにくくなります。どの支出が、なぜ標準的な生活費の範囲では整理しにくいのかを、資料と一緒に示すことが大切です。

  • 学校関係なら、在学先、納付書、進学前からの話し合いの記録
  • 医療や支援費用なら、継続性がわかる領収書や説明書類
  • 住居費なら、賃貸借契約書、返済予定表、居住状況がわかる資料
  • 収入面なら、源泉徴収票、課税証明書、確定申告書、通帳、事業資料

子どもの年齢区分が0〜14歳から15歳以上に変わる時期や、進学で支出が増える見込みがあるなら、最初の取り決めで見直しの時期を入れておく方法もあります。児童手当や児童扶養手当は家計全体を考えるうえで大切ですが、婚姻費用とは別の制度として切り分けて整理すると、話し合いが進めやすくなります。

話し合いでまとまらないときは、家庭裁判所の婚姻費用の分担請求調停を使う流れになります。進め方は婚姻費用の請求手続きで確認できます。なお、調停がまとまらず終了しても、婚姻費用のような別表第二事件では、調停の申立て時に審判の申立てがあったものとみなされます(家事事件手続法272条4項)。そのため、調停では「算定表から外れる事情があるか」「それを裏づける資料があるか」がその後も重要になります。

算定表を超えるかどうかは、例外的な事情があるかだけで決まるものではありません。月額に含めるのか、別に協議するのかを整理し、相手に支払いを求めた日付が残る形で伝えたうえで、必要資料を順にそろえていくことが大切です。