不貞や暴力など、婚姻関係が悪くなった主な原因が自分にあると言われていると、「婚姻費用はもう請求できないのでは」と不安になることがあります。けれども、結論を一言で決めつけるのは難しく、子どもがいるか、どちらと暮らしているか、収入差がどのくらいあるかなどで整理のしかたが変わります。まずは、婚姻費用の根拠と、どの事情が見られやすいのかを順に確認していきましょう。

有責配偶者でも、婚姻費用が直ちになくなるとは限りません

婚姻費用は、夫婦が婚姻から生ずる費用を分担するお金で、その根拠は民法760条です。別居していても、離婚が成立するまでは夫婦であるため、この分担義務自体は続きます。したがって、「有責配偶者だから一切問題にならない」と機械的に決まるわけではありません。

もっとも、婚姻関係の破綻に主たる原因がある側からの請求では、その事情が考慮され、通常の別居事案と同じ整理にならないことがあります。特に、請求する側本人の生活費までそのまま求められるのか、子どもの分はどう考えるのかは、分けて見る必要があります。

相手から「あなたが悪いのだから払わない」と言われると話し合いが止まりがちですが、婚姻費用は感情だけで決まるものではありません。同じように断られる場面でも、「収入がないから払えない」と言われた場合は確かめることが変わります。まずは、請求する内容が本人の生活費なのか、子どもの監護に必要な分も含むのかを整理することが大切です。

有責配偶者の婚姻費用で見られやすいポイント

子どもの生活費は、本人の生活費と切り分けて考えます

子どもと同居している場合は、婚姻費用の中でも子どもの生活費や監護に関わる部分が大きな意味を持ちます。子どもの利益に関わるため、配偶者本人への評価と同じに扱わず、どちらの親と暮らしているか、日常の世話を誰が担っているかを前提に整理されます。

そのため、有責性が争いになっていても、子どもが現にその親と暮らしているなら、子どもの分まで一括して考えないほうが話が整理しやすくなります。子どもの人数と年齢も重要で、算定表では0〜14歳と15歳以上で見方が分かれます。

この切り分けが効くのは、扱いが同じにならないことがあるからです。請求する側自身の生活費については、破綻の主な原因がその人にあるとして、通常どおりには認めるべきでないと判断される場合があります。一方で、子どもは親の間の事情に関係なく養われる立場にあるため、子どもの監護に必要な部分は、同じようには扱われません。

ですから、相手から「有責なのだから一円も払わない」と言われたときに、請求の中身を分けずに引き下がってしまうと、本来検討できたはずの部分まで手放すことになりかねません。自分の分と子どもの分を、はじめから別のものとして書き出しておくことが大切です。ただし、どこまで認められるかは事情によって幅があり、決まった割合があるわけではありません。

算定表は出発点ですが、別居の事情も確認されます

婚姻費用の目安を見るときは、家庭裁判所が公開している養育費・婚姻費用算定表を使います。双方の収入、収入の種類、子どもの人数、子どもの年齢、そして子どもがどちらと暮らしているかを当てはめると、標準的な整理の出発点が見えてきます。算定表の読み方は、別居中の婚姻費用がどう決まるかを先に見ておくと理解しやすいでしょう。

ただし、有責配偶者が請求する場面では、算定表だけで終わらず、別居に至った事情や、現在の負担状況も確認されやすくなります。月額に何が含まれているのか、教育費や医療費を月額に上乗せするか別に協議するか、住宅ローンの負担を婚姻費用の計算でどう考えるか、事情が変わったときに見直すかどうかも、先にそろえておきたい論点です。こうした内訳は婚姻費用の内訳の考え方に沿って確認しておくと、話し合いがかみ合いやすくなります。

公的な手当とは、別の制度として整理します

婚姻費用は夫婦の間で分担する生活費の話であり、児童手当や、離婚後に要件を満たして受ける児童扶養手当とは別です。これらはこども家庭庁の案内や自治体窓口で確認する制度で、婚姻費用の代わりになるものとして単純に置き換えることはできません。請求の話し合いでは、夫婦間の分担と公的な支援を切り分けておくことが大切です。

請求するときは、感情論より資料と時点の整理が大切です

婚姻費用を求めるなら、まず相手に支払いを求めた時点を、後から示せる形で残します。メッセージ、メール、書面など、日付が確認できる方法が向いています。有責性が争いになっている場合ほど、「いつ、何を、どの前提で求めたのか」があいまいだと話がこじれやすくなります。進め方は請求手続きの流れに沿って整理しておくと安心です。

そのうえで、収入資料、子どもの同居状況がわかるもの、住居費の状況、住宅ローンの有無、すでに負担している学費や医療費など、算定の前提になる資料を集めます。有責配偶者の請求では、相手が「標準的な算定ではない」と主張することもあるため、こちらも事情を言葉だけでなく資料で示すことが重要です。

話し合いでまとまらないときは、家庭裁判所の婚姻費用の分担請求調停を使う方法があります。離婚条件全体の話し合いが必要なら、夫婦関係調整調停(離婚)が選択肢になることもあります。どの手続が合うかは、今すぐ決めるよりも、まず婚姻費用だけを先に整理したいのか、離婚条件をまとめて話したいのかで考えると見通しを持ちやすくなります。

支払われないときは、取り決めの形で次の対応が変わります

有責配偶者の請求であっても、調停や審判などで婚姻費用が決まった後は、支払われない問題として別に対応を考えます。口頭の約束だけなのか、調停調書などの公的な書面があるのかで、取れる手段が変わるからです。

強制執行に進めるのは、法律上そのために使える書面がある場合で、根拠は民事執行法22条です。給与の差押えの範囲は同法152条に定めがあり、養育費や婚姻費用のような扶養義務に関わる債権には、同法151条の2と152条3項の特例があります。もっとも、実際に差押えまで進める前に、取り決めの前提となった事情が変わったのか、減額を求める理由が本当にあるのかを整理する場面も少なくありません。

「有責だから無理」「有責でも必ずもらえる」と決めつけるより、民法760条を土台に、子どもの生活費との切り分け、算定表の前提、請求した時点、取り決めの形を順に確かめることが近道です。迷うときは、手続の案内や相談窓口を使いながら、事実関係を落ち着いて整理していきましょう。