W不倫では、自分の配偶者と不倫相手だけでなく、相手方の配偶者も関わるため、慰謝料の話が複雑になりやすいです。金額だけを先に考えるより、誰に請求できるのか、どの事情が慰謝料に影響するのか、あとで争いになりやすい点はどこかを順に整理しておくほうが、落ち着いて進めやすくなります。
W不倫でまず整理したい「誰が誰に請求できるか」
W不倫という言葉は、既婚者どうしの不貞を指して使われることが多く、関係者は4人になる場合があります。このとき、慰謝料の検討では「あなたの権利」と「相手方の配偶者の権利」を分けて考えることが大切です。
不貞による慰謝料は、故意または過失で他人の権利や利益を侵害したときの損害賠償という考え方に立っており、根拠は民法709条です。また、配偶者と不倫相手が共同して損害を生じさせたとみられるときは、共同不法行為として各自が責任を負うことがあり、その根拠は民法719条です。つまり、通常は自分の配偶者にも不倫相手にも請求の検討余地があります。
一方で、相手方にも配偶者がいるため、相手方の家庭でも別の慰謝料問題が起こり得ます。ただ、それぞれの夫婦で生じる損害は同じではありません。W不倫だから自動的に帳消しになる、あるいは当然に半分になる、といった単純な話ではない点に注意が必要です。請求できる場面と難しい場面の見分けは、どのような事情で慰謝料が問題になりやすいかを先に整理すると見えやすくなります。
W不倫でも慰謝料の見方は「婚姻への影響」で変わる
W不倫であっても、慰謝料を左右する中心は、婚姻関係にどの程度の影響が生じたかという点です。名前が同じでも、事情が違えば見方は大きく変わります。
婚姻関係が破綻していなかったか
不貞が始まる前から夫婦関係がすでに破綻していたのか、それとも発覚前までは婚姻関係が維持されていたのかは、重要な確認点です。別居の有無だけで決まるわけではなく、生活実態や連絡状況、今後の見通しなども見られます。
不貞の継続性と発覚後の対応
一度限りなのか、継続していたのか、発覚後も関係をやめなかったのかによっても受け止めは変わります。隠し方が悪質だったか、繰り返し約束に反したか、家庭生活にどのような影響が出たかも整理しておきたいところです。
証拠をどう組み合わせるか
W不倫では、相手方にも家庭があるため、言い分が複雑になりやすく、証拠は1つだけでなく複数を組み合わせて考えることが多いです。メッセージ、写真、宿泊や面会の記録、発覚時のやり取りなど、通常の生活の範囲で得られたものから残していくのが基本です。証拠の集め方で迷うときは、不貞でどのような資料を組み合わせるかを確認しておくと、何を優先して残すべきか整理しやすくなります。
請求は、こちらからだけとは限りません
W不倫がほかの不貞と違うのは、両方の家庭に請求する側がいることです。
あなたが相手方に慰謝料を請求すると、相手方の配偶者が、あなたの配偶者に対して同じように請求することがあります。4人のうち2人が不貞をし、残る2人がそれぞれ請求できる立場に立つ、という構図になります。
このとき、自分の家計から出ていくお金と、入ってくるお金の両方を見ておく必要があります。相手方から受け取っても、同じ時期に配偶者が支払う側になれば、世帯で見た収支は想定と変わります。離婚するかどうかを決めていない段階では、ここが特に効いてきます。
逆に、離婚して配偶者と家計を分けるのであれば、配偶者が支払う分は自分の家計とは切り離して考えることになります。請求の順番を決める前に、離婚するかどうかの見通しを先に置くほうが、整理の仕方が定まります。
相手方だけに請求するときは求償権も見落とせません
W不倫で特に見落としやすいのが、求償の問題です。配偶者と不倫相手が共同不法行為として責任を負う場合、一方が支払うと、他方に対して負担部分に応じた額を求められることがあります。根拠は民法442条です。
ここで誤解されやすい点があります。条文は、求償できるのを「多く払ったとき」に限っていません。「その免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず」と定めています。つまり、自分の負担部分に届かない額しか払っていなくても、その範囲で求償の問題は生じます。
たとえば、不倫相手だけに慰謝料を請求して支払いを受けても、その後に不倫相手があなたの配偶者へ求償することがあります。そうなると、家計全体では思っていた整理にならないことがあります。逆に、あなたの配偶者が相手方の配偶者から請求を受ける流れになる場合もあります。
そのため、W不倫では「誰に請求するか」だけでなく、「支払い後に誰と誰の間で求償が起こり得るか」まで見ておくことが大切です。あとで認識のずれが出やすい部分なので、示談するときは対象を曖昧にしないことが重要です。求償の仕組みそのものは、慰謝料の求償権の基本を読むと全体像をつかみやすいです。
話し合いで決めるなら、書面には範囲をはっきり残します
W不倫では、関係者が多いぶん、口頭の確認だけでは後で食い違いが生じやすくなります。話し合いでまとまりそうなときほど、どの請求について、誰との間で、どこまで解決したのかを書面に残すことが欠かせません。
特に確認したいのは、慰謝料の名目をほかの問題と分けて書くことです。離婚の話し合いが同時に進んでいる場合、財産分与や養育費など別の項目まで含めているのか、含めていないのかを明確にします。「財産分与も含めて放棄した」と読める書きぶりになっていないか、反対に今回の合意の対象外である旨を明記したほうがよい項目はないかも確認したいところです。
また、分割払いにするなら、支払日、回数、支払方法に加えて、払われなくなった場合の扱いや遅延損害金をどうするかも書面で決めておくほうが安心です。誓約書にするのか、公正証書にするのかでも意味が変わるため、形式も含めて考える必要があります。書面の形と、入れておきたい項目は慰謝料の取り決めを書面にするにまとめています。
W不倫の慰謝料は時効も先に確認しておきます
慰謝料には期間の制限があります。不法行為にもとづく請求権は、損害および加害者を知った時から3年で消滅時効にかかり、不法行為の時から20年で消滅するとされています。根拠は民法724条・724条の2です。
W不倫では、最初は配偶者の不貞だけが分かり、相手方の特定があとになることもあります。どの時点で何を知っていたのかは、後で説明が必要になる場合があります。発覚から時間がたっているとき、相手とのやり取りが長引いているときは、請求の順番だけでなく期間の確認も早めにしておくと整理しやすくなります。
感情の整理が追いつかない時期でも、証拠の保存、関係者の整理、書面化したい項目の洗い出しだけは進めておくと、その後の判断がしやすくなります。W不倫は論点が多いからこそ、請求先、婚姻への影響、求償、時効を分けて考えることが大切です。




