慰謝料を請求したい気持ちはあっても、相手にお金がなさそうだと、動いても意味があるのか迷いやすいものです。けれども、この場面では「請求できるか」と「実際に回収できるか」を分けて考えると整理しやすくなります。ここでは、資力が乏しい相手に向き合うときの見方と、取り決めで外したくない点を落ち着いて確認します。

資力がないからといって、すぐ請求を諦める必要はありません

まず押さえたいのは、「資力がない」という言葉の中身です。手元の現金が少ないのか、継続した収入がないのか、預金や財産が見えないのかで、考え方は変わります。今は一括で払えなくても、分割なら現実的ということもありますし、逆に約束だけ整えても実行が難しいこともあります。

たとえば不貞を理由とする慰謝料は、不法行為に基づく損害賠償として問題になり、その土台は民法709条です。また、配偶者と相手方が共同で責任を負う場面は民法719条が根拠になります。つまり、権利があるかどうかの問題と、相手が実際に払えるかどうかの問題は別です。判決や合意ができても、そのまま自動的に入金されるわけではないからこそ、最初に切り分けて見ておく意味があります。

  • 今の収入や勤務状況に継続性があるか
  • 預金や保険、売却可能な財産があるか
  • 不貞のケースで、請求先を一人に絞るべきか
  • 一括ではなく分割にしたとき、現実に払えそうか

この整理をせずに「払えないらしいから無理」と決めてしまうと、請求先や進め方の選択肢を自分で狭めてしまいがちです。

まずは「誰に」「どう払ってもらうか」を整理します

不貞のケースでは、相手方だけでなく配偶者にも請求が検討されることがあります。相手方に資力が乏しくても、最初から請求先を一人に絞ると、交渉材料が減ることがあります。誰が事実を認めているか、連絡がつくか、継続収入があるかを含めて見直すことが大切です。請求の順番や伝え方は、請求の進め方を見ながら整えると考えやすくなります。

一括が難しいなら、分割払いの条件を細かく決めます

払える見込みはあるものの一括が難しいだけなら、分割払い自体は現実的な選択肢です。ただし、「毎月払う」というだけでは後で揉めやすくなります。支払日、振込先、何回遅れたら見直すか、慰謝料と財産分与など別の名目を混ぜないことを、文章で残しておきたいところです。取り決めの形は、書面にするときの確認点も参考になります。

特に注意したいのが、滞納したら残りをまとめて請求できるかという点です。民法137条は、債務者が期限の利益を失う場合を限って定めており、単に支払を怠っただけでは、当然に残額の一括請求にはなりません。遅れたときに残りをまとめて請求したいなら、その旨を合意で明記しておく必要があります。あわせて、支払が遅れた場合の遅延損害金も決めておくと、後で争点が増えにくくなります。遅延損害金の考え方は民法419条が土台で、法定利率は民法404条により年3パーセントです。分割払いの書き方は分割払いにするときの決め方でも整理しています。

証拠と時効は、資力の不安があっても後回しにしません

相手の支払能力が心配だと、「どうせ今は取れないなら、少し様子を見よう」と考えたくなることがあります。ですが、その間に証拠が散逸したり、連絡がつきにくくなったりすることは珍しくありません。資力が乏しい相手ほど、勤務先や住まいが変わることもあり、後になるほど見通しが立てにくくなることがあります。

不貞の慰謝料の消滅時効は、損害および加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年です(民法724条、724条の2)。「払えないなら今は動かない」と決めているうちに、時効が近づくおそれもあります。時効の数え方に迷うときは、時効の確認点を整理した記事もあわせて確認してみてください。

証拠は、最終的に請求するかどうかだけでなく、誰にどう請求するかを考える材料にもなります。やり取りの記録、振込履歴、交際や同居の事情が分かる資料など、通常の生活の範囲で得られたものから残していくと整理しやすくなります。相手に資力がないと思っていても、証拠があることで分割払いの合意に進みやすくなることはあります。

払われない場合も見据えて、記録の残し方を選びます

話し合いでまとまっても、実際には払われないことがあります。そのため、口約束だけで終えないことが大切です。後で強制執行を考えるには、民事執行法22条が前提とする書面が必要になります。メッセージのやり取りだけで済ませてしまうと、改めて手続を取り直さなければならないことがあります。

そのうえで、差押えまで進んだときに実際いくら取れるのかも、先に知っておくほうがよいところです。給料は、支払期に受けるべき給付の4分の3が差押禁止とされています(民事執行法152条1項2号)。つまり原則として、取れるのは4分の1までです。

この割合が2分の1に変わる特例もありますが、対象は同法151条の2第1項に挙げられた義務、つまり夫婦間の協力扶助、婚姻費用、子の監護に関する義務、扶養の義務を請求する場合に限られます(同法152条3項)。慰謝料はこの列挙に入っていません。養育費なら2分の1まで、慰謝料は4分の1まで、という違いがあります。

同じ理由で、まだ期限の来ていない将来分までまとめて差し押さえる特例(同法151条の2)も、慰謝料には使えません。分割払いにした慰謝料が滞っても、滞った分ごとに手続きを取ることになります。先ほどの期限の利益の条項を書いておく意味は、ここにもあります。残りをまとめて請求できる状態にしておけば、手続きを何度も繰り返さずに済みます。

離婚そのものや慰謝料の話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所の慰謝料請求調停を使う方法があります。離婚条件全体を話し合うなら、夫婦関係調整調停(離婚)の中で整理することも考えられます。調停は、必ずしも強く対立するためだけの場ではなく、事実と要求を分けて、支払方法まで含めて記録に残す場として使えることがあります。

慰謝料だけに頼らず、生活再建のお金を分けて考えます

相手に資力が乏しいとき、慰謝料だけで離婚後の不足分まで埋める前提は苦しくなりやすいです。生活の立て直しを考えるなら、慰謝料、財産分与、別居中の生活費、子どもに関する費用は名目を分けて整理した方が見通しが立ちます。ひとつにまとめると、後で「何のお金だったのか」が曖昧になり、支払いが止まったときにも動きにくくなります。

相手に資力がないからといって、すぐに諦める必要はありません。ただし、一括払いにこだわらないこと、請求先を狭めすぎないこと、時効と証拠を放置しないことは早めに確認しておきたい点です。現実に回収できる形を意識して進めると、感情だけで判断しにくくなり、次に何を決めるべきかが見えやすくなります。