慰謝料を自分で請求したいと思っても、何から始めればよいか分からず不安になりやすいものです。大切なのは、感情の強さで進めるのではなく、請求相手、事実、証拠、期限、合意内容を順番に整理することです。ここでは、自分で進めるときの基本的な手順を、話し合いから書面化、まとまらない場合の進め方まで順に見ていきます。

自分で請求する前に整理したいこと

慰謝料は、相手の行為によって権利や法律上保護される利益が侵害されたときの損害賠償として問題になります。根拠は民法709条です。不貞のように配偶者と相手方の双方が関わる場面では、共同不法行為として民法719条が関係します。自分で請求を進めるときは、まず「誰に」「何について」求めるのかを分けて整理することが出発点です。

請求相手と求める内容を分ける

不貞が問題なら、配偶者だけに請求するのか、相手方だけに請求するのか、双方に請求するのかで進め方が変わります。双方に請求できる場合でも、同じ損害について二重に受け取れるわけではありません。また、一方が全額を支払ったときは、他方に求償できる場合があり、民法442条が関係します。請求先を決める段階で、離婚の話し合いと一緒に進めるのか、慰謝料の問題を先に切り分けるのかも考えておくと、その後のやり取りがぶれにくくなります。

証拠と時期を確認する

自分で請求するときほど、事実を裏づける資料の整理が大切です。不貞ならやり取りの記録、写真、宿泊の経過が分かる資料など、暴力や暴言なら診断書、録音、メッセージなど、1つだけで決めようとせず複数を組み合わせて残します。集め方も重要で、通常の生活の範囲で得られたものから保存していく姿勢が基本です。詳しくは証拠の集め方の整理も参考になります。

あわせて、いつまで請求できるかも確認しておきたい点です。不法行為に基づく慰謝料の消滅時効は、損害および加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年が原則です(民法724条)。ただし、人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、知った時から5年とされています(民法724条の2)。暴力でけがをした場合は、3年ではなくこちらで考えることになります。時間がたつほど証拠も散らばりやすいため、気付いた時点で日付の分かる形にそろえ始めることが大切です。期間の数え方は慰謝料の時効は3年かにまとめています。

まずは事実と要求を分けて伝える

準備ができたら、次は相手に請求の意思を伝えます。ここで大切なのは、事実と要求を混ぜないことです。いつ、どのような行為があったのかという事実と、謝罪してほしいのか、接触をやめてほしいのか、支払いと書面化を求めるのかという要求は、分けて書いた方が相手にも争点が伝わりやすくなります。

最初の連絡を電話だけで済ませると、言った言わないになりがちです。メール、手紙、メッセージなど、内容が残る方法を選ぶと、後で経過を確認しやすくなります。返答期限を切って伝えることも有効です。相手が受け取っていないと言いそうなときや、通知した事実を残したいときは、内容証明郵便を使う方法もあります。進め方の全体像は慰謝料請求の流れでも確認できます。

請求文面では、強い言葉で責め続けるより、事実、根拠資料の有無、回答期限、連絡方法を落ち着いて示す方が、その後の話し合いにつながりやすくなります。相手が複数いる場合は、同じ文章をそのまま送るのではなく、誰に対し、どの行為を問題にしているのかを分けて書く方が整理しやすいです。

合意できそうなら、支払条件を書面で残す

相手が支払いに応じる姿勢を見せたとしても、口約束のまま終えるのは避けたいところです。支払うかどうかだけでなく、いつまでに支払うのか、一括か分割か、振込先、支払いが遅れた場合をどうするかまで、書面で確認しておくことが大切です。相手に支払う力が乏しそうなときの決め方は、相手に資力がないときの進め方で条文とあわせて整理しています。

このとき注意したいのが、慰謝料と財産分与、未払いの生活費など、別の名目が混ざる場面です。何についての支払いなのかが曖昧だと、後で「別の問題まで含めて終わったのか」が争いになりやすくなります。名目を分けて書き、どこまで清算するのかを明確にしておくと安心です。「財産分与も含めて放棄した」と読める表現になっていないか、今回の合意の対象外である事項を明記する必要がないかも確認したい点です。分割払いなら、遅延損害金や、一定の場合に残額をまとめて請求できる形にするかどうかも検討します。

将来の不払いに備えたいときは、公正証書にする方法もあります。誓約書と公正証書では、後で使える場面が異なるため、目的に応じて選ぶことが大切です。書面に入れる項目の考え方は取り決めを書面に残すポイントで整理できます。なお、慰謝料は原則として所得税の対象にならず、その根拠は所得税法9条1項18号と施行令30条1号です。その意味でも、何の名目で受け取るのかを明確にしておくことが大切です。

まとまらないときは調停を検討する

相手が事実を認めない、返答がない、条件が折り合わないというときは、家庭裁判所の慰謝料請求調停を検討することになります。調停は、当事者だけでは感情的になってしまう場面でも、争点を整理しながら話し合いを進めやすい手続きです。自分で申し立てる場合でも、時系列表、証拠の写し、これまでのやり取りをまとめておくと、何が争点なのかを伝えやすくなります。

ここで押さえておきたいのが、調停がまとまらなかったときの扱いです。慰謝料は、養育費や婚姻費用と違い、家事事件手続法の別表第二に掲げる事項ではありません。そのため、調停が不成立で終わっても、自動で審判に移ることはありません。養育費なら同法272条4項で申立ての時に審判の申立てがあったものとみなされますが、慰謝料ではそうならず、続けるかどうかを自分で決めることになります。

代わりに効いてくるのが同法272条3項です。調停が成立しないものとして終了したときは、その旨が当事者に通知されます(同条2項)。そして、通知を受けた日から2週間以内にその事件について訴えを提起したときは、調停の申立ての時に訴えの提起があったものとみなされます。時効が迫っている場面では、この2週間が意味を持ちます。

訴えを起こす先は、相手によって変わります。離婚そのものとあわせて配偶者に求めるなら家庭裁判所の手続きの中で扱われますが、不貞相手のような第三者への請求は、通常の民事訴訟として地方裁判所や簡易裁判所で進めることになります。請求先を最初に分けて整理しておきたいのは、このためでもあります。

また、調停を考えている間も、期間の制限は意識しておきたいところです。慰謝料の消滅時効は、先に見たとおり民法724条が土台になります。古い出来事ほど、「いつ知ったのか」「誰が加害者かをいつ認識したのか」が問題になりやすいため、経過をメモで残しておくことにも意味があります。

自分で慰謝料を請求する手順の中心は、相手を追い詰めることではなく、請求先、事実、証拠、期限、合意内容を順番に整えることです。途中で、離婚条件全体や別の請求と混ざって整理が難しくなったときは、相談窓口の案内を確認しながら、どの論点を先に決めるかを落ち着いて見直すと進めやすくなります。