住宅ローンが残っていると、離婚そのものよりも「家をどうするか」で話し合いが止まりやすくなります。けれども、落ち着いて見ると、確認すべき点はある程度決まっています。大切なのは、感情だけで結論を急がず、名義、ローン、住む人を分けて整理することです。ここでは、住宅ローンが残ったまま離婚するときの見方を順番にまとめます。
まず分けて考えたい3つのこと
最初に確認したいのは、「家の名義」「住宅ローンの名義」「離婚後に誰が住むか」の3つです。これらは同じとは限りません。夫名義の家でも、妻が連帯保証人になっていたり、夫婦で連帯債務を負っていたり、ペアローンを組んでいたりすると、離婚後も返済に関わる立場が残ることがあります。
そのため、まずは自分がどの立場にいるのかをはっきりさせることが大切です。連帯保証人・連帯債務・ペアローンでは責任の残り方が違うので、自分の立場の違いを先に整理しておくと、その後の話し合いが進めやすくなります。名義を変えたい、保証を外したいと思っても、金融機関の承諾なしに当然にできるわけではありません。
ここは条文で押さえておく価値があります。返済する人を入れ替えて、もとの債務者を外すことを免責的債務引受といいます。民法472条1項は、引受人がもとの債務と同じ内容の債務を負い、もとの債務者は自己の債務を免れると定めています。問題は成立のしかたで、2項は債権者と引受人となる者との契約による場合、3項は債務者と引受人となる者が契約をして債権者が引受人に承諾をする場合、と書かれています。
どちらの道にも債権者が出てきます。つまり、夫婦のあいだで「これからは私が払う」と決めても、それだけでは相手が債務者から外れません。離婚協議書に書いてあっても、金融機関に対しては効きません。返済が滞れば、外れたつもりの側にも請求が来ます。ここを取り違えたまま離婚すると、何年も経ってから気づくことになります。
また、共有名義の家は、各共有者が持分に応じて使用でき(民法249条1項)、一方だけの判断で大きな変更をすることはできません(民法251条1項)。つまり、共有のままなら、売却や名義整理で相手の協力が必要になる場面が多い、という前提で考える必要があります。
最初にそろえるのは「残高」と「査定額」です
話し合いの出発点は、今日時点の住宅ローン残高と、家の査定額をそろえることです。どちらか一方だけでは判断がぶれやすいため、残高と査定額の2つを並べて確認します。
| 確認するもの | 見たいポイント | 手元に置きたい資料 |
|---|---|---|
| 住宅ローン残高 | 完済までの負担、名義人、保証の有無 | 返済予定表、残高証明書 |
| 家の査定額 | 売却の見込み、ローンとの差 | 査定書、購入時の資料 |
| 不動産の名義 | 単独名義か共有名義か | 登記事項証明書 |
査定額がローン残高を上回るのか、下回るのかで、住み続ける、売る、引き継ぐの考え方は大きく変わります。さらに、頭金をどちらが出したのか、親からの援助があったのか、婚姻前の資金を使っていないかも確認しておくと、財産分与の整理がしやすくなります。返済予定表、売買契約書、登記事項証明書などを先に集めておくと、後から記憶違いで揉めにくくなります。
離婚時に家の扱いまで決めきれず、財産分与を離婚後に協議することもあります。ただ、民法768条2項ただし書は、離婚の時から5年を経過したときは家庭裁判所に協議に代わる処分を請求することができないとしています。話し合い自体が5年で禁じられるわけではありませんが、まとまらなかったときの行き先が閉じます。家の結論がまだ出なくても、数字と資料だけは早めに固めておく意味があります。
住宅ローンが残ったまま離婚するときの主な進め方
どちらかが住み続ける場合
一方が家に住み続け、もう一方が出る形は珍しくありません。子どもの生活環境を変えたくない場合には、この選択を考えることも多いでしょう。ただ、住む人とローンを払う人が別になると、返済が遅れたときに住んでいる側が気づきにくいという問題があります。名義だけ移す、ローンだけ相手のままにする、といった形は見た目より不安定です。支払方法だけでなく、固定資産税、管理費、修繕費、いつ見直すかまで書面に残しておきたいところです。
売却して整理する場合
売却は関係を整理しやすい方法ですが、共有名義なら原則として双方の協力が必要です。売却代金で完済できるか、不足分をどうするか、引渡しの時期をどう合わせるかを一緒に考えます。なお、査定額はあくまで見込みなので、売り出し価格や実際の成約価格と同じとは限りません。査定だけで結論を急がず、売却までに必要な動きも含めて考えることが大切です。売る時期そのものの考え方は家を売るタイミングにまとめています。
名義やローンを引き継ぐ場合
家をどちらかが受け取る合意ができても、それだけで住宅ローンの引継ぎが当然に認められるわけではありません。金融機関の承諾や審査が必要になることが多く、家の名義を変える話と、借入れの名義を変える話は別に進むことがあります。また、不動産の持分を受け取っても、登記をしなければ第三者に対して権利を主張しにくいので(民法177条)、登記を動かすタイミングも確認しておくと安心です。
見落としやすい税金と生活費の確認
家に関する話では、税金の扱いも切り離せません。住宅ローン控除は、借入れがあり、その年の12月31日まで引き続き自分が居住していることなどが前提です(租税特別措置法41条)。そのため、離婚で家を出た側や、持分だけを取得して借入れを負わない側では、考え方が変わります。家を受け取るかどうかは、住めるかどうかだけでなく、税金面も含めて見ておく必要があります。
また、別居してから離婚成立までの間は、住宅ローンとは別に生活費の問題が残ります。離婚が成立するまでは、夫婦は婚姻費用を分担する立場にあり(民法760条)、家の返済をしていることだけで、生活費の話が当然に終わるわけではありません。子どもがいる場合は、離婚後の養育費も別に考えます。家庭裁判所の養育費・婚姻費用算定表は、双方の収入、子どもの人数と年齢を当てはめて標準的な目安を読む資料なので、住まいの話と並行して準備しておくと整理しやすくなります。
口約束で終わらせないための整理項目
最後に大切なのは、決めた内容をあいまいにしないことです。少なくとも、誰が住むのか、毎月の返済口座はどれか、固定資産税や管理費・修繕費は誰が負担するのか、売る場合はいつ何を条件に動くのか、借り換えや名義変更ができなかったときにどう見直すのかは、文章で残しておきたい項目です。離婚後に支払う側の勤務先や連絡先が変わったとき、どう連絡するかまで決めておくと、後で困りにくくなります。
共有名義の家では、一方だけで処分できない場面があるため(民法251条1項)、何をするには双方の同意が要るのかを書いておくと誤解を防げます。話し合いがまとまらないときは、離婚そのものと一緒に夫婦関係調整調停(離婚)で整理する方法や、離婚後であれば財産分与請求調停で話し合う場面もあります。住宅ローンが残ったままの離婚では、名義・ローン・保証人、残高・査定額、住む人の順に確認していくことが、結論を急ぐよりも大切です。




